西川紀代美のVagabond in Dublin!
『今年の6月に(山梨放送を)退社して7月からアイルランドに留学する事にしました。最低一年は行ってくるつもりです。わっはっは。行っちゃいますよー、10年来の憧れのかの地に・・・友達は「なんだってアイルランドなの?」って聞いています。「それは私の趣味だからさ!」 名付けて「西川紀代美2000年風来坊化計画 in Ireland!」』

と、いう言葉を残してふらりふらふら風来坊、ダブリンに行ってしまった西川紀代美さんからお手紙が届きました・・・。


Vagabond in Dublin:
1. マイケルの記録破られる!?
2. イニシュモア旅行記
3. Irish好み・言葉編
4. Vagabond in Scotland
5. PUBに行かなくちゃ!!!


Riverdance the Homecoming
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山梨放送 Goo! Morning
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■第2回:アラン諸島 イニシュモア島への旅
Sun, 10 Sep 2000 14:43:53 +0100

【いざ、アランへ!】

9月某土曜日午前10時、アイルランドの東側の街ゴールウェイからイニシュモアに向かうフェリーに乗りこむ。フェリーが大西洋に滑り出すように出発した瞬間、かの「タイタニック」のテーマ曲と共に海の中に沈んで行く、レオナルド・ディカプリオがフラッシュ・バックした。

い、いかん、ここからはたった2時間の船旅。ましてや、今だ夏ではないか。氷山なんてあるはずが無い・・・と、船に備えられた小さなそして2艘だけの救命ボートに話しかけた。もったいつけるかのように、船はゆっくりと大西洋を進み、やっとイニシュモアに到着した時には午後一時を回っていた。


【極上のシーフードチャウダー】

船の上ではデッキで過ごしていたため、体が冷えきっていた。とにかく、温まるものを食べたい、と島でのランチはシーフードチャウダーを注文した。これが、絶品。ジャガイモニンジン、タマネギなどの野菜に魚介類がたっぷり。具沢山でクリーミーなスープを口に運ぶたびに体がジワジワ温まって行く。島にはフェリーポート近くに数軒のレストランというよりも食堂が集まっている。地元の漁師達が一仕事終えた後腹ごしらえに立ち寄る事も多く、アラン伝統の「おふくろの味」を食べ比べてみたい。
シーフードチャウダー



【自転車で島巡り】

島での移動手段は3つのパターンがある。観光用のバンに乗りこむか島名物の一つ馬車か、レンタル自転車。自転車のレンタルは一日5アイルランドポンド(1アイルランドポンドは120円ほど)2日で7アイルランドポンド。自分のペースでゆっくり島を楽しむには自転車が一番。さっそくチャリで出発した。変速ギアがついているのでスタートは好調!サスペンションがイヤに堅いのが気になるが・・・目指すはドゥーン・エンガスの大絶壁。鈍く光る大西洋からの海風が気持ち良い、途中何度かの緩く長い上り坂でへばりそうになったけれど。
アラン名物の馬車



【やっぱり「道草」は楽しい】

道草のススメ。アランといえばざっくり編まれたアランセーター発祥の地。ハンドメイドのセーターを多く扱う「セーターマーケット」にはアランセーターが所狭しと積み上げられている。90ポンドも出せば手編みのアランセーターが手に入る。脱脂された羊毛の独特の匂いがマーケットには漂う。
セーター売り場


途中立ち寄った島の売店にもアランセーターが売られていた。売店のオバちゃんもせっせとなにやら編んでいる。話し掛けてみると、編んでいるのはニット帽。驚いた事にあの複雑な模様をたった2本の編み棒で編んでいる。しかも私と面と向かって話している間も、その手はノン・ストップ。「スゴイ技術ですね」と言ったら、「この島では男は漁、女は編物が生きる道だからね」と笑った。深い笑顔だった。
匠の女性



【ドゥーン・エンガス】

1時間以上かかって、やっと、かの大絶壁に到着。自転車を置いて、しばらく丘を登るとその上に半円の古代遺跡が見えてくる。絶壁は200mから300mあり、島の大地はざっくりと切り落としたように海に向かっている。一歩踏み出すと、まっさかさまに大西洋にダイブすることになる。目もくらむような迫力に、腹這いになって下を眺めている人も多い。
ドゥーン・エンガス


ある友人にドゥーン・エンガスの写真を見せた事がある。「こんな地形、自然に出来る訳が無い」と言っていた。違う違う、人間にはここを作り出す力なんて無い。紀元前2500年位からの大遺跡の中で、自分なんていかに小さい存在なのか思い知る。


【ゲール語で目覚める】

アイタタタ・・・久しぶりに張りきってサイクリングしたためにB&Bで目が覚めたとき強烈に、腰とお尻に痛みを感じた。しかも、窓の外では2人の男がやかましいほどの大声で会話している。はて? 明らかにそれは英語によるものではない。魔法使いの呪文のようにも聞こえる不思議な響きを持つ言葉。 「うわー、ゲーリック(アイルランド語)だ !!」

第一公用語にも関わらず、日常的に使うのは人口の5%程度。ゲールタクトと呼ばれる地域の人々のみの間で話されている。アラン諸島もゲールタクトの一つなのだ。アイルランドに着いてから、ゲーリックの自然な会話を聞くのは実はその時が初めて。もっと、近くで聞いてみたくなり部屋を出てみると、宿の外に当人達がいた。私を見て 「Good Morning! Did you sleep well?」

そういえば、レンタサイクル屋のオジさんに宿のおかみさんといい、昨日のニットのオバさんも、私とは英語で話していたではないか。島民のほとんどが見事なバイリンガルなのだ。
石灰岩の丘



【オアシス? を発見】

島を後にする前に、最後にもうちょっと・・と自転車を走らせる。石灰岩だらけのゴツゴツした大地が広がるイニシュモアの南の果てで、水が湧き出ている所を見つける。そこだけはアランのほかの所には無い風景が広がる。池の周りには緑の絨毯が生茂り、白い花が風に揺れる。
アランのオアシス


もし、またアランに来る事があっても私が出会った風景や人はなんら変わっていないのだろうと感じる。厳しく過酷な歴史から生まれたアラン諸島の全ては、逆に多くの旅人達に温かい感動を与えている。アランまではアイルランドのダブリンにいても遠い。しかし、訪ねる価値は十二分にある場所である。



Written by Kiyomi Nishikawa
Designed by shibasaki
Produced by moriy (Air)
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