コラム:Riverdanceって何?
Riverdanceって何?
当たりさわりなく言えば、「アイルランドの作曲家Bill Whelanが、民族の歴史を川の流れになぞらえてモチーフとした音楽に、現代的なアイリッシュダンスやタップダンス、フラメンコ、バレエ、そして生楽器などの視覚的・音響的効果を組み合わせて作られた、約2時間半の舞台作品」といったところでしょうか。
そもそもダンスが好きじゃない、とか、音楽聴いてると眠くなって、という人でなければたいていの方におすすめしますよ。海外作品ですが、言葉なんてわからなくてもOKです。ナレーションは入りますが、見ていればわかることですし、セリフなんてないですから。
ビデオも世界中でヒットしていますし、日本にも何度か来ていますし、とりあえず見ろ、と言うのがいちばん話が早いんですけどね。作品のできあがる経緯とかに興味がある人は「a journey」ビデオを入手されることをオススメします。
Riverdanceを見るいろんな視点
Riverdanceという作品は、「Riverdance 現象」と呼ばれるほど大きな成功をおさめていることもあって、作品解釈以外にも世間で注目を浴びています。見る人ごとにいろんな視点があると思いますが、ここではそのさわりだけご紹介しましょう。(まだ作品を見てない人にはやっぱりよくわからないと思いますが)
テーマとして「アイルランドの民族の歴史・移民の記憶と望郷」というようなものを示していながら、Riverdanceは世界中で受け入れられ、アイルランド系の人以外(特にドイツや日本)にも非常に人気があります。Riverdanceは一時期3つのカンパニーで世界を回っていましたし、日本や韓国、中国でもツアーを行っています。その後現れた「アイリッシュダンスをフィーチャーした作品群」も同じように世界中で上演されています。
必ずしも「アイルランド文化」といったものに接点のない人にもこれだけ受け入れられるのは、「ローカルなもの(特殊)の底流には、実はユニバーサルなもの(普遍)が流れている」ということなのかもしれません。
モダンなアイリッシュダンスを取り入れた作品が数ある中で、Riverdanceの特徴を考えると、「対立と融合」というポイントが見えてきます。それは「アイリッシュ対スパニッシュ」「アイリッシュ対ジャズ」であったり(それはダンスだけではなく、音楽スタイルの対立でもあります)、「伝統と現代」「ダンス対楽器」であったりもします。
それは単に「世界にはこんなダンスがあります」「こんな音楽もあります」という観光ガイド的な紹介・ダンスの見本市ではなく、全体をまとめて「Riverdance的」といえるくらい、作品としての完成度を持っています。この完成度はオリジナルの出来の良さからだけではなく、94年の初演(舞台作品としての初演は95年)から現在に至るまで、様々なダンサー、ミュージシャン、そして世界中の観客がぶつかり合いながら、つねに進化し続けてきた結果、生まれてきたものだと思います(進化の過程はビデオを見るとわかります)。
それぞれ独立したコミュニティの文化をぶつけることで、そこに共通する普遍的な人間性のようなものを浮かびあがらせる、という手法。これは特にRiverdanceの専売特許というわけでもないでしょうし、他の分野でも行われてきたことだとは思いますが、Riverdanceはその顕著な成功例として記憶されることとなるでしょう。
わたし自身がこの作品に魅了されたポイントとして、「打撃系パフォーマンスの底力」をあげておきたいと思います。オープニングの「Reel around the Sun」、第1部最後の曲であり、この作品の原点となる曲でもある「Riverdance」、エンディングの「Riverdance International」、どれもアイリッシュダンサーによる大迫力の群舞です。
エンターテインメントとしてだいぶ演出が入っているため手の動きもありますが、基本的に両腕を胴体につけたまま、脚だけで踊るこのダンススタイル。作品の中でフラメンコやタップダンスとコラボレーションすることでその特徴はさらに強調されるわけですが、この、ジャズダンスやバレエから考えたら無表情すぎるダンスと、タップやフラメンコに比べれば単純なリズムが、身体の深いところに伝わってくるのです。能面にいくつもの表情を感じるように、このダンススタイルは深い表情を秘めていると思えるのです。
制作者側も言っていますが、Riverdanceでのアイリッシュダンスは非常にSexyです。それはプリンシパルの衣装のスカートの丈が何センチ、という話だけではなく(確かに短いですけどね)、脚というものの能力を限界まで引き出す打撃系ダンスを、何十人が一列に並んで、上半身を使わずに踊るということが、下半身の役割を最大限に強調しているということなのではないかと。それが、身体の奥まで伝わるリズミカルな振動とともに、大地との交流というか、男性であれ女性であれ、人間の非常にプリミティブな部分に訴えかけてくる、ということではないでしょうか。
Riverdanceはハマります。昼の部を見た人がその場の勢いで夜の部の当日券売り場に並ぶ、というようなことがこのサイトの読者の方のレポートによく書いてあります。日本公演がない年には海外まで見に行ってしまう人だっています。ビデオもCDも日本にいたまま手にはいるのに、やはり生を見に行きたくなる。
もちろんどんな作品にでも熱狂的なファンはいるものですが、初演から10年近くもたって、主演ダンサーも次々入れ替わる中、いまだにファンにとって(私も含めて)気になる存在であり続けるのは、それだけRiverdanceが作品として優れているからだと思います。
・・・もしかしたらあなたも、その中のひとり?