ビデオ・CD・本:ダンシング・オールライフ - 中川三郎物語 -
五・一五事件の翌年に17歳でアメリカに渡り、ブロードウェイで成功し、二・二六事件の年に帰ってきて、第二次大戦の前年に帝国劇場に立ったという、戦前日本のタップブームの中心にいたとんでもない大人物、中川三郎さんの前半生を描いた小説です。
読んでて元気の出る本です。おすすめ!
全3部構成になっています。
第1幕は中川三郎さんの出生から、当時のモダンな世の中でタップダンスと出会い、アメリカ行きを決心するまで。
第2幕は三郎青年がアメリカ・ブロードウェイで修行し、一流のタップダンサーとして成功するまで。
そして第3幕では、帰国した中川さんがさまざまな苦難にぶつかりながらも、日本のダンス、舞台芸術を大きく変えていきます。
昭和10年代という、なんとなく白黒の陰鬱な画面のイメージが強い時代ですが、乗越たかおさんの文章は生き生きとしてカラフル。その時代の風俗の描写がところどころにちりばめられ、どこまで事実で、どこまでフィクションかわからないセリフがうまくハマって、一気に読めます。
とくに見せ場だと思うのが第2部のウインター・ガーデンでの晴れ舞台と、第3部で、恋人の兄が、日本刀を持って妹を取り戻しに来たときのソフト・シュー・タップのシーン。ダンスをコトバで表現するのってむずかしいと思うんですけど、なんとなく目に浮かぶような感じがします。
乗越さんといえば、よく立川流の落語会とかで配られるチラシの中にはさまってる「わらっていいもんかどーか」(で、よかったかな?)という、かわら版的フリー・ペーパーによく文章を書いてらっしゃいます。この本の中でも大衆芸能についての造詣の深さが出ていて、中川三郎さんと当時のスター柳家金語楼さんとのギャラの比較とか、「林家三平」、「立川談志(当時小ゑん)」といった名前が出てくるのが演芸ファンにはうれしいところ。
以前(たしか97年)、同じく第二次大戦前のモダンな日本を舞台にした、乗越さん原案の「『青空』- 川畑文子物語 -」という舞台を見たことがありますが、つくりが散漫であまり面白くなかったという印象があります(主演の土居裕子さんには目がハート型になりましたけどね)。
やっぱりこういう「誰それ物語」みたいなのは朝の連続テレビ小説とか、4時間くらいの映画とかでじっくり作ってほしいです。
大恐慌直後という時代背景がいまの日本に近い感じしますし、ニューヨークロケして、実際の劇場を使ったセットとか作って映像化したら受けると思うんですけどねえ・・・、
どうです? プロデューサー各位。