RD2008:5/24夜:

東京オフ会&イベントではどうもでした。とんがりやまさんからお久しぶりなレポートいただきました。
Jun. 1 2008
posted by とんがりやま

 Riverdance は〈祝福するステージ〉だと思うんです。

 と、こう書くと、なにやらあやしげな宗教じみますが、そもそもこのダンス・ショウが誕生した経緯がそうなっているんですね。
 ヨーロッパ全土に放送される「ユーロビジョン歌謡祭」というイベントの、幕間を埋めるパフォーマンスとして創り出されたのが Riverdance だというのはみなさんご存じの通り。非ヨーロッパ圏の我々には、ユーロビジョンといわれても「ああ、あの Riverdance を生み出したイベントね」などと、すっかり主従逆転したかたちで記憶されることとなりましたが、それはともかくとして、 Riverdance は<主たるイベントのための余興>というところから出発した、というのがポイントです。メイン・イベントである歌謡祭の優勝者なんて誰ひとり知らないほど「余興」の方が世界的ヒットとなったわけですが、それはあくまで結果論。企画当初はメイン・イベントを彩り、かつアイルランドという国を全ヨーロッパ中に印象づけようとして創り出されたパフォーマンスにすぎなかったのです。

 それなりに歴史のあるユーロビジョン歌謡祭のなかで、どうしてアイルランドがホスト国となった1994年だけが、Riverdance という奇跡を産みだしえたのでしょう? 当時のアイルランドが、急速な経済成長を迎えつつある勢いのある国だった、というのは重要なことでしょう。そして、ヨーロッパ中から集まった参加者と観客をなんとかしておもてなししようと発揮されたアイルランド人ならではのホスピタリティも、同じくらい重要な要因ではなかったかと思います。
 そうしてできあがったパフォーマンスは、単にイベントを彩るだけにとどまらず、その場に集まった人々を残らず笑顔にさせてしまうような、心の底から幸福感に包まれたものとなりました。なぜならそれが<主たるイベントの成功を願い、アイルランドという国を言祝ぎ、参加者と視聴者を祝福するため>に創られたパフォーマンスだからなのです。

 <主たるイベントのための余興>としての Riverdance は、翌95年の舞台作品化からはじまってブロードウェイ進出や世界的規模のツアー公演まで、ステージ・ショウとしてこの上ない進化を遂げましたが、2003年にアイルランドで開催された「スペシャル・オリンピックス」というイベントへの出演を果たしたことで、その大きな環を閉じます。<Riverdance というムーヴメント>にとっては、それ以降のことは——あまり言い方はよくないですが ——いわば「残滓」ではないでしょうか。

 ユーロビジョン歌謡祭出演が1994年4月。
 初来日公演はその5年後の、1999年3月。

 スペシャル・オリンピックス出演が2003年6月。
 そしてその5年後の2008年5月、「これで最後」の来日ツアー開始。
 …ただの偶然、にしてはできすぎなような気もしますね。

 * * *

 多くの同好の士と同じく、わたしも初来日公演からもう数えられないほどこのステージを追いかけてきましたが、見終わったあとにはかならず「もう一回観たい」と思ってしまいます。それは何故なんだろう、と考えていて得た結論が、上に書いた「Riverdance=祝福するステージ」説です。2003年、スペシャル・オリンピックスのテレビ中継動画を観ている最中に、ふと頭に浮かんだものです。
 けれど「もう一度観たくなる」のには、それだけではなく、他にも秘密がありそうです。

 5月24日(土)の夜公演。福岡から来られたという男性から(お連れの方が急遽来られなくなったとかで)会場前でチケットを譲っていただき、思いがけず1F後方の良い席で鑑賞することができたのです。わたしにとっては予定外の観劇でしたが、それだけにとても印象にのこる回となりました。
 オープニング直後から予感はあったんです、この回はきっとすばらしいステージになるに違いないと。じっさい、第一幕終了直後の客席のため息とも驚嘆ともつかないざわめきはいまだに耳に残っています。また公演中に客席のあちこちから飛ぶかけ声や手拍子の反応の良さ、タイミングの絶妙さも実にすばらしいものでした。
 そしてあのフィナーレ! そうだ、Riverdance を何度も何度も観たくなるのは、このフィナーレがあるからこそなんだ、ということに、わたしは今更ながら気が付きました。出演者ひとりひとりが丁寧に、そして見せ場をたっぷり与えられて再登場する、あの長いエンディングこそ、Riverdance のもつ<幸福感>のエッセンスなんじゃないか。今までいくつものステージ・パフォーマンスを観てきましたが、これほど「幸福なフィナーレ」を持つショウは他にほとんど見あたらないのではないかとさえ、思ってしまったのでした。だから直後に「もう一度観たい」ってなるんだな。

 この夜の観客のレスポンスの良さは先に書いた通りでしたが、スタンディング・オベーションの素早さとスムーズさも格別でした。あっという間に客席じゅうが総立ちした光景は、この10年間に Riverdance が日本へもたらしたもののなかでも、最良のひとつと言っていい瞬間だったことでしょう。かつてAir掲示板で何度も「スタンディング論争」が繰り広げられていたなあ、なんてことも思い出しました。

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