ライブ&レポート:映画『ホテル・ビーナス』

 
Mar. 15, 2004
posted by moriy

フジテレビで盛んに宣伝してたはずなのでご存じの方も多いでしょう。SMAPの草なぎ(弓へんに剪)くん主演の映画『ホテル・ビーナス』。公式サイトもあるんですが、Flashが非常にまどろっこしいので簡単に舞台設定の紹介を(ネタバレ注意)。

とある最果ての街に、「カフェ・ビーナス」という名前の店があった。お茶もなく、コーラもなく、出されるメニューは「ビーナス・ブレンド」のコーヒーだけ。このカフェの奥はホテル(というか賄い付きの下宿)になっていて、それぞれに、人に言えない事情をもった人たちが、名前も過去も隠して暮らしていた。

恋人を事故で失い、気持ちの整理がつかないままの青年(チョナンこと草なぎくん)。ある失敗をきっかけに、酒びたりのダメ人間になってしまった医者とその妻(ドクター&ワイフ)、妻を殺した男と、一言もしゃべらない娘(ガイ&サイ)、自分の花屋を持ちたいという夢のため、ドラッグの運び屋をはじめてしまう女の子(ソーダ)、母親に捨てられてホテルで育ち、強がりで「殺し屋」を自称する少年(ボウイ)、そしてホテル・ビーナスの謎の主人(ビーナス)。

距離を保ちつつも、お互いを意識しながらひっそりと暮らす彼らは、いつか自分の人生を取り戻すことができるのか・・?

ロシアのウラジオストクで撮影され、セリフはすべてハングルの映画を、日本語字幕で観る、ということがまずとても新鮮です。全編モノクロ調で(青だけ色を残してあります)、1カット1カットまるで写真集のようにこだわって撮られた映像にも圧倒されます。映像に一家言ある方には「あれは誰それの影響で」云々あるのでしょうが、シロウトの私には充分すぎる作り込みようで、いいですよこの映画。

ホテルの住人はすべて、自分のせいではない出来事によって世の中から非難されています。その実、その非難は世間との摩擦というよりは自分の中での思いこみでしかなかったりします。映画の中で彼らは自分の過去を語り、そしてラストには全員がそれぞれの道へ飛び立ちます。この設定、出来すぎといえば出来すぎですが、作品として非常にうまいです(ソーダの描写が薄いかな?)。

ひとつ間違えると「90年代的ハリネズミのための癒し映画」「被害妄想な人たちの言い訳映画」「映画的自己啓発セミナー」なんですけれど、役者さんはみんなそれぞれに存在感があって、説明ゼリフも字幕だと抵抗なく入ってきて、わたしも草なぎ君のラスト近くのセリフ(の字幕)で何度もうるうる来てたので、もう降参です。みなさんも文句言う前にとりあえず観てください。


で、やっと本題。Air的にこだわりたいのは草なぎ君のタップダンスなわけです。
チョナンの死んでしまった恋人というのがタップダンサーだった、という設定で、回想シーンの中で、チョナンと彼女が夜の公園(かな?)でステップをいっしょに練習している、というようなカットがチョナンの回想のなかで何度も出てきます。で、この恋人役というのが、あの平和の森の金子里朱生さん

残念ながら里朱生さんの顔があんまり映らないんですな。映っても暗くて表情が見えない。まあそれが監督の意図なのかもしれず、何とも言えませんけど、パンフのキャスト紹介写真もブレてるのも意図的なのかしらん? エビさんのサイトに里朱生さんのウラジオストクロケ記録がありますのでご一読を。

草なぎ君自身もSMAPのツアーなんかでタップを披露してるらしいですが、この映画の中でもチョナンのタップが非常に効果的に使われてます。

誰とも口をきかない少女・サイとチョナンが洗濯物を干している場面では、少女が踏み台(ちっちゃくて手が届かないから)からトン、と着地した音に、草なぎ君が足でタタン!と。口から出る言葉がなくても、足音で会話してるわけです。あと、その場面の登場人物それぞれの顔を短いカットでつなぐときに、そのカットのタイミングに合わせて、タップ音がstep - slide- heel - heelとか(見えるわけではないのでステップはテキトーですよ)。

チョナンが「生きていても死んでもいっしょ」と思っている自分自身の壁を乗り越えるために、深夜ホテルの屋上でソロタップを踏み続けるシーンは、打撃系ダンスの面目躍如という感じで、チョナンの奥底に隠れていた激情を振動で伝えてきます。

その他にも、なにかとチョナン氏は足元をカタカタ言わせてます。すこしでもタップやったことのある人なら、無意識にステップを踏んでいて、電車や店の中で変な目で見られるということを必ず経験しているでしょうから、「あー! それわかるわかる」となること請け合い。

タップとは関係ないですけど、少女の白い靴がすごくいい小道具になってます。チョナン氏もよく見ると何足か靴もっているんですよね。着ているタンクトップもいつも真新しい白(モノクロ調だからか?)。そんなに収入ありそうには見えないんだけどなあ・・・。

たぶんゴールデンウィーク前までの公開だと思うので、機会があったらぜひ。

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