よしのさんのこと D-IMPACT.netへのお便りは Airの管理人moriyあて |
1998年の、たしか8月の末だったかな。お世話になってるタップの先生、江口祥子さんから電話があって、大阪から来てる知り合いがアイリッシュダンスのことで話を聞きたがってるんだけど、と。 ちょうどリバーダンスの来日も決まって、「Air」というアイリッシュを中心とした打撃系ダンスのサイトを立ち上げて、自分の中ではおそろしく盛り上がっていたにもかかわらず、あまりの反応のなさに途方に暮れていた頃。 翌日、新宿の東口で江口さんも含めて3人で待ち合わせて喫茶店へ。 「あのですね(大阪弁っぽく読んでね)、Lord of the Danceてあるじゃないですか。あれのビデオ渡されてね、」 「はあ」 見たことある人はわかるでしょうけど、比較的上品なRiverdanceじゃなくて、いきなりLOTDを見せられるというのはきっかけとしてはかなり、濃い。 「『こんなんやれ』て言われてるんですわ」 「ほう」 「でね、来年(1999年3月)『リバーダンス』が来るでしょ、それに合わせて女の子何人かと、CD出すっていう話があるんですよ」 「!」 おお、なんか人から「リバーダンス来日」という言葉を先に言われたのははじめてではないか? なんか感動するなあ。 「でも、アイリッシュっていっても全然わからないんで、どうしようかて悩んでるんですよね」 「は、はあ・・・」 わたしのできることといえば、その時点でわたしが持ってる情報は全部出して、持ってたアイリッシュダンス関連のビデオをぜんぶ貸してあげるということくらい。 「いやホント、助かりますー」 その後の雑談モード。そもそもデビューを決意したのはなんでか、というような話に。もちろんいま聞けばまた違う答えが返ってくると思いますし、書いてる私の勝手な解釈も入ってしまいますので、以下の話はそのつもりで読んでください。 「なんかね、ものすごく狭いんですよ、この(タップの)業界」 吉野さんは「カンパニー・キッチン」というグループの主宰として、タップを中心にダンスのレッスンや振付、舞台で活躍されてて、ホントに「ダンスで食ってる」方なんですね。それだけでもう、尊敬してしまうんです。スゴいことなんですよ。 「レベルは高いと思うんですよ、みなさん。でも、なんか、知り合いがお互いの舞台を観に行ってるだけみたいな感じで、すごく狭いんです」 タップの舞台、ってのがまずほとんどないんですけど、あったとしても、客席にいるのは出演者の知り合いのダンサーとか、教えてるクラスの生徒さん達とか。で、その舞台に立ってる出演者が、次の週には観る側にまわって客席にいる、と。 わかってる人ばっかりが観にいくから、そういう人にウケる舞台を作る。当然レベルは上がる。それを観た人がまた対抗してレベルを上げる。ポジティブなフィードバックで、いいことなんですけれど、同時にフツーのお客さんには理解できないレベルにまでどんどん離れてしまっている。 閉じた環境での単為生殖なんですかね。離れ小島とかにいる特有の種類のトカゲのような。その環境でもっとも適応した形質が一気に環境内を席巻する(適応のレベルが急速に上がる)んですけれど、環境に変化(陸続きになっちゃうとか、人間が別の土地から他の種を連れて来ちゃうとか)があったときにはあっというまに絶滅してしまう。 このままでいいんだろうか、という思いが吉野さんのなかにはあって。 Wテイクの白井博之さんいわく、タップというのは常に「希望選択科目の筆頭」なんだそうです。ダンスやる人は誰でも「一度はタップを」と思うらしくて、体験レッスンの希望者は続々とつめかける。ただ、靴と床というインフラの必要性や、最低限踊れるようになるまで時間がかかるというような問題があって、なかなか定着しない。 ただ、それだけが問題じゃないとおもうのですね。 戦前というか、かの中川三郎さんの時代、タップというのは子供のいわゆる「習い事」として非常に人気があったそうです。ジャズの時代だったから、その音楽に合うタップが流行ったんだ、という言い方もあるんですが、リズムタップな人たちは今風の曲でガンガン踊ってますし、アイリッシュのリールやジグ、アパラチアやカナダのクロッギング(タップに似た打撃系ダンス)におけるカントリー系の音楽といった例を挙げれば、「タップ=昔風のジャズ」というのはあまりに狭い。 「SMAPがタップやってくれたらなあ」 結局はそういうことなのではないか、と。狭い中でレベルを上げていくのもひとつのやり方ではあるのだろうけれど、もっとミーハーに、わかりやすい形で、多くの人に見せていかないと、タップの市場自体がどんどん狭くなってしまうのではないか。 そこで出てきたメジャーデビューの話。背景には「リバーダンス」や「ロード・オブ・ザ・ダンス」の欧米でのブーム。コーラスグループの振付としての打撃系ダンス。タップではなくあえて「アイリッシュ」を標榜することによる「いわゆるタップ」イメージの打破。 外のいろんな遺伝子を取り込みつつ進化していければいいと思うんです。 業界の文脈でいえば、マスコミに乗ることによる市場の拡大。なんとなくテレビ見ている人にも打撃系ダンスに触れてもらって、興味を持ってもらって、舞台に、教室に来てもらえるかもしれない。 ダンススタイル自体の文脈でいえば、アイリッシュという辺境の打撃スタイルを取り入れることによる進化。靴や床のあり方についてもおもしろいアイデアが出てくるかもしれない。 そんなわけで、D-IMPACTは面白い企画だと思うのです。 「ぜひやってくださいよ。応援しますから」 それから約1年半。リバーダンス来日には間に合わなかったけれど、2000年1月、ついにD-IMPACTデビュー。 タップ仲間には言われるんですって。「吉野さんタップうまいのに、なんでアイリッシュなんてやるの?」「そんなにまでして売れなくてもいいじゃない」とか。で、デビューしたらしたで、アイリッシュくわしい人からは言われるんですよ、「D-IMPACT? あれでアイリッシュはないよなあ」って。 それくらい狭いんです。タップも、アイリッシュも。こだわりが強いってことなんでしょうけれど。もうちょっと、長い目で見て、応援できないものでしょうかね? UDFCはそこらへんのことをわかったミーハーなみなさんの参加をお待ちしてます。D-IMPACTの活動が面白いと思ったら感想を聞かせてください。気に入らなかったらどうしたらいいかアイデアを教えてください。D-IMPACTを面白くするか、つまらなくするかはみなさん次第なのですから。 |
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