コラム:靴を作るのだ(6)
十数秒後。
「はいてみ」
若いお兄ちゃんのほうが手伝ってくれる。もしかしたら商品を乱暴に扱われると思ったのかも知れない。
「ちょっとキツいかな」
「親方(と言ったかどうかわからないけど、そんな口調で)、キツいって」
「・・・そうか?」
「あの、ですね。この、長さは、ちょっと長くて、えーと(とっさに単語が思い浮かばない)、幅が、短いと、いうか」
「オッケー、Wide Fitでいいな」
「は?」
「WideなFitにすればいいんだな?」
「あ、はい」
このときわたしが試しに履いてみたのは、Toe Pieceのついてない状態のハードシューズ。のりしろというか、「ここにくっつける」というマークがつけてありました。
Fay'sのカタログにはありませんが、あとでくわしい人に話を聞くと、セットダンス用の靴というのはこういうものに近いらしいです。
「で、お願いがあるんですけど」
「ん?」
「この、ここに付くであろうところの、Toe Pieceは付けないで欲しいんです」
「!?(マジかこいつ、という顔)」
大将、おもむろにToe Pieceのついた完成品のハードシューズを持ってきて、つま先部分を指さし、
「これか? この、これが無くてもいいのか?」
「そうです」
「なんでだ?」
「そこにね、フツーの、Tapsをくっつけたいんですよ」
「ああ、そう。オッケー、じゃそうする」
お昼が近いせいか、やたら話を切り上げたがる、ような気がする。
「あ、で、大丈夫ですかね、この底」
「?」
「いや、ネジの穴開けても貫通とかしません?」
「大丈夫だろ」
「で、もしできたらボール(指の付け根あたり)部分の底を2重にして欲しいんですよ」
「オッケー、いいよ」
「(ほんとにオッケーなのか?)追加料金とかは?」
「いらないよ。Toe Piece使わない分、同じ値段でやってやるよ」
「あ、ありがとうございます」
「いつ帰るんだ?」
「え?」
「いつアイルランドを出るんだ?」
「(7月の)26日です」
「・・・じゃ、送らないと無理だな。31日までにはできるから、送るよ」
融通が利きすぎてなんかあっけないなあ。
「日本だっけ・・・? ちょっと待て、送料調べるから」
靴が49ポンド(約1万円)、送料が20ポンドくらい。
「じゃ」といって奥に引っ込もうとするので、
「あ、ちょっと、レシートみたいの、ないの?」
「ああ、そうね」と、手書きの読みにくい字で(「Double Sole」くらいしか読めない)さらさらっとメモに書いて、渡してくれました。
あまりに簡単に話がついて逆に不安だなあ。