コラム:武蔵野のタップの灯
「武蔵野青年の家」っていうのがあるんですよ。JR武蔵境駅から歩いて10分くらい。40畳くらいのホールと、宿泊部屋と、会議室と、食堂があって、東京都に住んでるかもしくは勤めている人(別に青年じゃなくても使えます)のための施設。ふだんは劇団や合唱団の人たちの練習場や、勉強会のたぐいに使われています。
その「武蔵野青年の家」で、東京都の教育委員会が主催して、ここ数年「エンターテインメント講座」というのをおこなってます。内容はいろいろですが、ここ3年はタップダンスがテーマ。
期間は6ヶ月。月に1回、16〜30歳の「青年」が週末に合宿して、5〜6人が1グループとなってタップダンスの舞台作品を作り(ワークショップというやつですね)、6ヶ月目には大きなホールで卒業公演を行うっていう企画。参加費用は1回2,000円程度。食費+宿泊費ですね。あとはぜーんぶ東京都持ち。いよっ! 税金の有効利用!!
で、このタップ企画の1年目(95年)は観客として、2年目(96年)は参加者として、3年目(97年)はスタッフとして関わっていたんです。これが私のタップ事始め。
集まる人たちは多種多様。男女あわせて40名程度で、だいたい半々です。女性は女子高生、看護婦から人妻まで(^_^;)。男性は公務員から遊び人まで。どっちかというと公務関係が多いかな。チラシを置く場所がそういうところだから。
各グループ(5〜6人)の人選は、住んでる沿線などを考慮しつつも、ほぼランダムに決められていたようです。実際参加してからわかったんですけど、学生と社会人って生活のサイクルが違うから、一緒に時間作って練習するのって意外と難しいんですよね。
講師は白井博之さんと児玉順子さん。「Wテイク」の名前で活躍なさっているお二人ですが、タップだけでなくジャズ、バレエ、パントマイム、ジャグリングetc.と非常に間口の広い方たちで、わがままな参加者の要望に応えてくれます。
あ、付け加えておくとこの講座は初心者のみ対象です。「なんとなく面白そうだし、ほとんどお金かかんないし」ってな気分でやった来た人間が、6回の合宿(実質5ヶ月)で舞台に立っちゃうんですから、おそろしいですね。講師のお二人の苦労もしのばれるというもの。
そのかわり、さまざまな個性が混じり合い、時にはぶつかり合いながら生み出される作品はどれもユニーク。「いわゆるタップダンス」のイメージを飛び越えた作品ばかり。
第1回目、白井先生から「タップとは何ぞや」という講義があって、そのなかで「起源としてのアイルランド云々」の話を聞いたんですね。(この頃は先生も私も、リヴァーダンスの存在を知りません)
で、その数年前からの音楽的嗜好として、〜いわゆるニューエイジ〜enya〜Windham Hill系〜Nightnoise〜TRAD系、という流れを経てきたわたしの中で、「あ、それならTRADでタップやってもいいわけね」という感じで結びつくのはまあ当然なわけです。
そうしていろいろCDを買いこむ中で「リヴァーダンス」を見つけたりするんですけれど、悲しいかな、それらの要素を振付に取り込む力などあるはずもなく。しょうがなく白井先生に「ダンナ、こんなんありますぜ」とCDを手に話しかけたら、ちょうどニューヨークから帰ったばかりの先生に「え、なんで持ってんの?」とビックリされたり。
公演の出来は・・・といっても、舞台で満足できることなんかそうそうないんでしょうし、そのときの不満があるからいまだにタップの練習してるのかもしれませんしね。まだこんなものじゃないぞっていう感覚で。
わたし以外にもそういう人が多いのか、公演が終わった後でタップスタジオに通い始めたり、時たま集まって練習したり、ハマった人が何人もいます。1年目、2年目の有志で小さなライブやったり。いろいろしてるみたいです。
ここまで読んで、「あ、私も参加したい!」という人もいるかと思いますが、この講座は基本的に3年サイクルで考えられていて(ちなみに前の3年はパントマイム)、タップも今年でおしまいみたいです。残念。
卒業生は3年で百数十名になるんですけど、客席で、「なんだ、あの程度ならオレにでもできる」と思った人の数も加えれば(^_^;)、日本のアクティブなタップ人口を増やすという点において、武蔵野青年の家とWテイクは非常に大きな役割を果たしてますね。
3年目の公演が終わったら、また有志集めてライブやろうとかいう話もあって。武蔵野のタップの灯はしっかりと受け継がれていきそうです。