コラム:上手なかぜのなおし方
・・・どうもダマされているような気がする。
こないだ教育テレビを見てたら、何か保健の偉い先生(女性)が、風邪の予防法について語っていた。
先生「通常のうがいでは、のどに入ったウイルスにしか効き目がありませんね」
聞き手の女性「はい・・・そういえば」
先生「そこでおすすめするのが『鼻うがい』です」
ボールをふたつ並べて、片方にぬるま湯をいっぱい入れておく。その中に食塩を入れて、0.9%の食塩水にする。
VTRの中で、白衣の男性がおもむろにその食塩水に顔をつけ、鼻から吸う。男性の頭頂部の髪の毛が少し薄い。顔を上げ、鼻から吸った食塩水を口に通し、もう片方のボールに移す。
先生「この食塩水は作り置きはしないで、その都度つくるようにしてください」
家に帰るたび、ボール一杯の生理的食塩水をつくる家庭ってのもスゴいけど、それじゃ先生、気管に入ったウイルスはどうしたらいいんでしょう?
うがいって、あの一連の動作で呼吸器全体が刺激されて、自浄作用というか、痰やなんかが出やすくなるからいい(その意味ではうがい薬は無駄なんじゃないか)、というのが実感なんですけど・・・どう?
マスクもそう。
「マスク1枚くらいでは、咳をしたとき脇から飛沫が出てしまうので、できるだけたくさんのマスクを重ねるようにしましょう」というようなことを図鑑かなんかで読んだことがあるんですけど、これもスゴい意見ですよね。
だからといってマスクが無意味だと言うんじゃないですよ。マスクはするべきです。でも、1枚で充分。
たとえば自転車のダイナモ。「ダイナモひとつくらいでは、夜道はたいして明るくならないので、できるだけたくさんのダイナモをつけるようにしましょう」って言ったら、ヘンでしょ。同じことです。
自転車のヘッドライトは、自動車や歩行者に、「そっちに自転車が行きますよ」ということを伝えるためについているのであって、決して進行方向を照らすためについてるわけではないですよね。
歩行者はライトついてませんけど、自転車みたいに暗闇から猛スピードで飛び出してくることもないですからいいんです。
つまりマスクをするのは、「わたしは風邪をひいてます。気をつけてください」ということを無言で主張する手段なわけです。飛沫をどうこう、ではないです。
「どうしたの? 元気ないな。飲みいこーよ!」
「・・・(のどを指さす)」
「え、『の』? なに、金語楼先生? ・・・『置いといて』、違う?」
「そんな、今どき、ジェスチャーなんて・・・」
「なに? 聞こえないよ!」
・・・とかいう無駄な会話をしなくて済むわけです。さらに、くぐもった声で「帰ってもいいですか・・・」と言えば早退の成功率も高まるというもの。
あとまともな話、息のしめり気が布に残って粘膜が乾くのを防ぐという効果がありますね。
ついでにいえば「わたしは周りに気を使う人間です」という「いいひと」宣言でもあるし、なにより病人気分を盛り上げてくれるから、ちょっとした薄幸の美少女を気取ったりできる(男なら檸檬を文具屋に置きに行くところ)。
無条件にひとが優しくしてくれることなんて、めったにないでしょ。
・・・そういえば風邪って、まわりのひとが優しくしてくれなくなる頃に、なおりますよね。